子育てはうれしいことや楽しいことばかりではなく、ときには悩んだり、孤独に感じることだってあります。
家族みんなが笑顔で心身ともに健康で過ごすためにも、ときには何かに頼ることも大事。
「the kindest mama」は、育児や家事、仕事を頑張る人たちのストーリーを通じて何かに頼ることへのネガティブな想いを減らし、愛するわが子の身体と心、家族の絆をつくる食育の大切さを伝える、世の中のママパパを応援するインタビュー企画です。
今月の「the kindest mama」は、66歳離れたパートナーとして瀬戸内寂聴さんの秘書を務めた瀬尾まなほさん。
今年2月には第二子を出産し、現在離乳食をスタートしたばかりのお子さまを持つ二児のママ。「好きなことをしなさい」といつも仰っていたという瀬戸内さんに寄り添い続けた瀬尾さんに、子育てをする上で頑張りすぎないことの大切さについてお話をうかがいました。
10年寄り添った「66歳差パートナー」との奇跡的な出会い
3人姉妹の真ん中として田舎で育ち、小さいときは自然の中で遊び、のびのびと好きなことをして過ごしていました。両親は習い事としてそろばん、水泳、剣道、オーケストラと色々なことに挑戦させてくれ、姉妹と比べることもなく比較的自由に育ててくれました。
大学は京都の学校に通っていたのですが、大学3年になった頃、将来特にやりたいこともなくて。それに伴いちょうど就職氷河期だったこともあり、なかなか就職先も決まらなくて焦りを感じていました。そんなとき、友人がアルバイトをしていたお茶屋の女将さんに、常連客として通っていた瀬戸内が「若いスタッフが欲しい」と話していたのをきっかけに紹介してもらったのが、瀬戸内との出会いです。
私自身、”尼さん”というくらいにしか瀬戸内のことを知らず、作家ということも、京都にお寺があることも知らず、とにかく就職先を見つけたいという想いで面接を受け、採用してもらい、寂庵で働くことになりました。
はじめは、はっきりものを言う毒舌で怖いイメージがあったのですが、知れば知るほど若々しくて可愛らしくて魅力的で・・・。どんどん好きになっていきました。
仕事では、こうしろ、ああしろと指導されたことがなく、自分で瀬戸内を観察して、いろんなやり方を試しながら、お互いベストな方法を見つけていったんです。
気づいたら、昨年99歳で亡くなるまでの10年もの間、秘書として瀬戸内と共に歩んできました。
現在は瀬戸内の仕事を通じて知り合った夫と、2歳と0歳の二人の息子と暮らしていて、産休をとって育児に専念しています。
仕事と育児を両立できることを証明したかった
瀬戸内の時代は、女性が働いたり、子どもを保育園に預けることが当たり前の時代ではなかったので、「結婚して子供が生まれたら働けないね」と言われたこともありました。なので、妊娠が分かったとき「仕事を辞めないといけないのではないか、クビにされてしまうかも」と思い、瀬戸内に切り出せなかったんです。
なかなか言い出せなくて、妊娠7ヶ月まで瀬戸内に黙っていたのですが、そんな心配とは裏腹に、瀬戸内は子どもを授かったことをとても喜んでくれました。
出産して、長男が4ヶ月の時に保育園に預けて仕事に復帰しました。瀬戸内のことが心配で離れたくなかったのもあったんですが、自分自身、育児と仕事を両立できるということを証明したかったんですね。
もちろん、4か月というすごく大切な時期から保育園に預けることには後ろめたさもありました。
だけど、私自身マタニティーブルーになったり、産後もホルモンの乱れや、自分の思い描いていたようにいかないことへの苛立ちもあって、夫ともよく衝突したりして、孤独感でいっぱいでした。
働くことで自分自身を取り戻すこともできましたし、息子も早くから他人との関わりをもてて社会性を身につけられたので、お互いにとって良かったと思っています。
瀬戸内も、女性が仕事と育児を両立できていい時代になったね、と感心していました。
他人と比べず、好きなことをして個性を伸ばしてあげるのも親の役目
子育てのモットーは「頑張りすぎないこと」。
日本人は特に真面目なので、一つ一つを完璧にこなそうとしがちです。けれど欧米とかをみているとうまく手を抜いているなと思うこともたくさんあります。
頭では分かっていても、育児をしていると日々自己嫌悪に陥ったり、焦りを感じたりすることもたくさんあります。でも、頑張りすぎるとしんどくなりますよね。
私は、長男を早くから保育園に預けていたこともあってか、「こうじゃなきゃいけない」という自分の考えのこだわりがなくなりました。
大人になってもご飯を座って食べられない子、トイレに一人でいけない子、話せない子なんていません。育児書などに書かれている「〇歳までに」という情報はあくまで目安であって、一人ひとりのペースが大事だと思うんです。そうは思っても周りの子と比較してしまいますけどね。そんなとき、保育園の先生や同じママたちに話すと視野が広がります。
あとは瀬戸内がいつも言っていた「好きなことをする」「褒めることが一番」という言葉を大切にしています。
我が子をしっかりみてあげて、その子が好きなことややりたいと思っていることを伸ばしてあげることが親の役目だと思っています。瀬戸内も私が瀬戸内に送った手紙を見て、私の文章を褒めてくれたんです。そこで私は「書く」とういう楽しさを知りました。その人の可能性を見つけ、褒めてのばしてあげることが瀬戸内のやり方だったんですね。自分の可能性を信じてくれている人がいるってすごくうれしいことだなって思います。
私も、自由に自分で決めて選んだことを、尊重してあげられるような母親になりたいなと思っています。
<プロフィール>
瀬尾 まなほ
瀬戸内寂聴秘書
1988年、兵庫県生まれ。京都外国語大学英米語学科卒。卒業と同時に就職し、瀬戸内寂聴の秘書となる。読売新聞「まなほの寂庵ごよみ」、共同通信社にて全国の地方紙にて「P.S.寂庵より」にて連載中。困難を抱えた若い女性たちを支援する「若草プロジェクト」の理事も務める。現在二児の母。
著書:『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(2017年) 、『寂聴先生、ありがとう。』(2019年)『寂聴先生に教えてもらったこと』、『#寂聴さん 秘書がつぶやく二人のヒミツ』(2022年)
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